「山は整備、管理した方がいいのか?」
逆に言うと「山は放置してよくなるのか?」
答えは「×」です。 それはなぜか?
長年放置されたヒノキ林。日が当たらないため、下層植生がゼロ。枝も枯れ、暗い林になっています。
まず、放置された山がどうなっているのかという視点で見ると、特徴的なのは立っている木が、
「背は高いけど、直径は細い」ということ。
つまり「細長い」木という事。
なぜこのような木になるのか?
それは、木はその場から「動くことが出来ない」から。その場所で、生き延びていくしかない。
この時、隣の木との距離が短いと、枝を伸ばすことが出来ない。一方他の木との生存競争にもなるので、上へと伸びていく。横の空間は無くても、上の空間は空いているので、上の空間を目指して、上へ上へと伸びていきます。ただし、他の木も同じ事なので、同じように上へ上へと伸びていく。結果、皆が皆同じような木になっていきます。「細長い木」「枝葉の少ない木」です。
このようにして出来た木は以下のようになります。
1、災害に弱い~つまり風や雪などで折れやすい状態だという事。高さに対して径が細いので、折れやすい。根も張っていないので、根が抜けて転ぶという事にもなるし、お互いに支え合っている状態なので、将棋倒しのように多くが倒れてしまうと状況になりやすい。
2、資産としての価値が低い~細いので、材木としての価値も低い。使い道が限定されてしまう。そして太い木が欲しくても細ければどうしようもない。
3、今後に期待できない可能性が高い~年数が経っている場合(例えば戦後植えられた木だと60年以上経っている)、たとえ整備したとしても、今後の成長、特に横方向への拡大は期待できない可能性が高い。何故か。背が伸びてこれ以上高くなれない木は、現状の枝葉を横に伸ばすしかないので、枝葉の量を大きく増やすことが出来ないから。
主には以上の3点が考えられます。
よく整備され、日も入り、下層植生も豊かで、高く太く育ったヒノキ林。
森林に手を加えるという事は、主には「間伐」という作業を行う事。文字通り木と木の「間を伐る」という事。間を伐る事で、近くなりすぎた木と木との距離を空けてあげるという事。これがとても大切な事で、これをやることで、木が横方向に成長できるようになります。
手を入れた木とそうでない木との差は、木の直径の大きさに顕著に表れます。上で挙げたデメリットが改善されます。
左の条件に近い林
間伐とは、文字通り木と木の間を伐るということですが、どれを伐るかによって、どういう木を造るのか、どういう山を造るのかにもつながります。
いろいろな考え方、やり方があり様々です。例えば一例を挙げますと、
現状の前提条件を以下のように決めた場合
・ヒノキ林
・樹齢;40年
・樹高;20m
・過去に一回の間伐実施
・現状胸高直径に差がついてきている状態で太いものは30㎝以上、細いものは10㎝程度。
・ヘクタール当たり本数;1500本
以上のような状態の場合どうするか?どうすればいいか?
計算式で込み具合を出す方法もあるのですが、それは一旦横に置いておいて、大きな方針をどうするかを考えます。
ここで胸高直径に注目して考えて、とりあえず3つの方法を考えると、
1、胸高直径に差がついてきているので、大きいものを残し、小さなものを伐る。
2、胸高直径に関係なく、木と木の間隔が同じになるように伐っていく。
3、胸高直径が小さいものを残し、大きいものを伐っていく。
ということが考えられます。
1は、大きなものがより大きくなります。現状でも大きいので時間の短縮にもなります。
2は、大きなものと小さなものが混在した林になります。
3は、小さいですが、年輪が詰まった良質材が取れますが、時間は掛かります。
どれもありで、どうするかは、どういう木、山にしたいかという事になる。
ここがなかなか難しいところでもあり、おもしろいところでもあります。
「どんな木を伐るのか?」~明らかに木に優劣が付いている場合、以下の通りになります。
「どんな木を残すのか?残せばいいのか?」
その2で書いたどんな木を伐るのかの反対になります。
間伐は毎年少しづつやってくのが理想ですが、これはある程度整備がされている場合です。長年放置されていた場合は、一旦適度な密度まで一気に間伐してしまう必要があります。そうしないと毎年やっていたのでは間に合わないし、手間暇もより多くかかってしまい、掛かる費用も多くなってしまうから。
私が施業したとある山は、7年前位に間伐された山だったのですが、既に混み合い、下側の枝がかなり枯れあがっている状態でしたので、一旦、強度の間伐を行いました。同時に、枯れあがっていた枝を落とす「枝打ち」を実施。こうなってしまえば、あとは毎年見回りする程度で済み、適度に間伐していけばいい状態になります。
継続して整備、管理されている山であれば、毎年少しづつ間伐すればそれで済むのですが、その状態にするには一気に進めてしまう事も必要です。
間伐は、残す木の成長を促し、価値を高めるために行う事。なので、間伐の際、残す木に「傷を付けない!」という事も大切です。
残す木にぶつけるような伐り方をしてしまうと、幹に傷を付けてしまい、その傷がもとでそこから腐りが入ってしまい、価値が落ちてしまいます。
下の写真は、過去の間伐で傷がつき、腐りが入ってしまったケースです。こうなると逆に価値が落ちてしまうので、とてももったいないことです。間伐の際は残す木に傷を付けないよう、細心の注意を払って行うようにしています。
以下にも例を示しますので、参考にしてください。
下の写真もヒノキで、根元によく見ると傷があります。大きい傷だったみたいで、傷口が完全にふさがっていません。長年かけてもふさがらないような傷だと、そこから雑菌が入り、次第に腐っていきます。こうなると時間を掛けて大きく育てても、かえって腐りが大きくなるばかりで、価値は下がっていきます。大きな立派な木であっても、他に代わりの木があるようでしたら伐った方がいい木です。
ヒノキの事例ですが、以下はとても分かりやすい例。
左側は分かりにくいかもしれませんが、右側は相当腐りが進行しているので、さっさと伐って、他の木を活かした方がベター。
おそらく過去に間伐した際、残す木に当てて傷付けたもの。
木は傷を修復しようとしていますが、傷が大きすぎてふさがっていない。
傷がふさがる前に、そこから腐り始めている。
こうなると時間が経つほどに腐りが進行し、傷がふさがったとしても内部の腐りは止まらない。腐ったところはボロボロになっている。
獣害による被害木。こうなるともはやどうしようもない。
もったいないと思って残すより、腐りが入る前に伐ってしまった方がいい。